こんにちは、歩き方コンサルタントの篠田洋江です。
【はじめに】
2022年12月まで執筆していた「しのだひろえの歩っとタイム」の続編として、まち歩きコラムを週1回公開していこうと思います。歩きたくなる街には魅力的な人や建物があり、暮らしや日々を心地よくしてくれるもの。歩きたくなる街は住みやすい街。散歩やウォーキング、住まい選びのヒントになればなによりです。
庶民が主役になれる街~高円寺編1~(まち歩きコラム)
今、高架下ににぎわいが生まれている。
ゴーと電車の通る音、埃っぽくてジャンクな落書き、小説に出てきそうなコンクリートばかりのグレーの色合い。そんな高架下のイメージがガラリと変わり、オシャレなカフェや人々の笑い声が響く場所、それが今の高架下だ。
例えば、JR秋葉原駅から御徒町駅間の「2k540 AKI-OKA ARTISAN」、JR有楽町駅~新橋駅間の「日比谷OKUROJI」をはじめ、高架下の再開発は着々と進んでいる。本日はその中でもJR高円寺駅に2023年3月31日にオープンした「高円寺マシタ」をピックアップし高円寺という街の魅力を何回かのシリーズでひもといていこう。
■高円寺マシタ
JR阿佐ヶ谷駅寄りの一区画が「高円寺マシタ」(以下、マシタ)である。他の再開発エリアに比べれば小規模だが、チェーン店を含め7軒が現在オープンしている。どこも高円寺の文化になじんでいきそうな、脱力感とおだやかさがある。
昭和の名残を残す高円寺高架下にあって、オープンテラスはあるしロゴや店構えはお洒落だし夜はちょっとしたbarになったりする令和仕様のエリアではあるが、表参道や銀座のように意気込まなくてもいけるのが高円寺仕様だ。
■人生の休憩場
以前はこの辺りにはサクッと立ち寄れる飲み屋が軒を連ねていた。今でもマシタを抜ければ、昼からごきげんに歌えるスナックや大声で話せる飲み屋や、とにかく安い居酒屋が「いつもお疲れ様」と待ってくれているようで、仕事や人間関係に疲れたときに立ち寄れる人生の休憩場的魅力がある。
マイクをもった腕をあげてちょっと上向き加減で目をつむって熱唱する姿のなんと気持ちよさそうなこと。歌はうまいへたじゃないんだ、歌うか歌わないかだ。好きにしていい、楽しむことに正直で貪欲であっていい場所だ。
■14もの商店街
さて高円寺というと商店街がいくつもある。高円寺純情商店街、高円寺パル商店街、高円寺南商店会をはじめ、東京メトロ・丸の内線の新高円寺駅や東高円寺駅までふくめれば14もの商店街がある。また丸の内線の各駅まではそれぞれ10分20分程度ではあるが、商店街を通り抜けるので歩く楽しみがある。
高円寺の商店街といえば、「東京高円寺阿波おどり」や「びっくり大道芸」などのイベントへの力の入れようもかなりのもの。特に 「東京高円寺阿波おどり」 は大規模だしメディアでもよく取り上げられているから知っている人も多いだろう。確かにこの日は、JR高円寺駅はもちろん丸の内線の駅方面もにぎやかで、まさに“踊らにゃ損々”
このコラムを書いている2023年には8月26日(土)、27日(日)に「第64回 東京高円寺阿波おどり」が開催されるそうなので、足を運んでみてはいかがだろうか。
■なぜ高円寺で阿波踊りなのか
なぜ高円寺で阿波踊りなのか、という疑問は誰もが一度は思うことだろう。
実は高円寺パル商店街を歩けば、東京高円寺阿波おどり踊り始めの場所を見つけることができる。この説明版によると、「1957年(昭和32年)8月27日30数名の若者がこの場所から桃園川までの200mほどを踊ったことに始まります(原文まま)」とある。
その後、現在の高円寺パル商店街に青年部「まどか会」が誕生した際に商店街振興のためになにかできないかと検討していたようだ。やぐらを組むスペースも資金もない中で狭い商店街でも賑やかにねり歩けるという理由から阿波踊りに決まるものの、誰も阿波踊りを見たことも鳴り物を聴いたこともないため、日本舞踊の先生にならい、白粉、眉墨、口紅を塗りたくられて化け物になったそう。鳴り物はチンドン屋に依頼し高円寺バカ踊りとして踊り始めたのが始まりだという。
■イノベーションがうまれる場所
ジュガードというインドの言葉がある。今あるものの中で創意工夫をし新しいものを生み出す・作り出すということだ。かっこいい言葉でいえばイノベーションを生むということだが、日々をいかに楽しむかという暮らしや生活に近い言葉だと私は解釈している。
「東京高円寺阿波おどり」 はまさにジュガードのよき例だが、高円寺という街そのものが創意工夫と新しい発想を促進させてくれるような街ではないだろうか。
さまざまな制限の中でいかに楽しむかというジュガードがうまいのだ。楽しむことへの貪欲さが知恵になり人々を楽しませることにつながり街に活気がうまれているのではないだろうか。
よく芸人さんが中野・高円寺に住んでいると聞くが、それはこの街の持つジュガードな力が芸能・感性豊かな人々を引き寄せているからかもしれない。
ジュガードな力を高めたいと思ったら、高円寺を歩いてみてはいかがだろうか。